緑内障の診断
緑内障にはいくつかの種類がありますが、一般的に緑内障といえば、開放隅角緑内障(POAG、primary open angle glaucoma)のことです。
40才以上の20人に1人、60才以上の10人に1人が緑内障といわれています。
日本人の中途失明の原因の第一位が緑内障です。
緑内障では視神経が眼圧により圧迫されて慢性的に退行変化をきたし、網膜の神経線維が薄くなり、視野障害から失明に至ります。
緑内障の診断は後眼部OCTにより簡単に行うことができます。
OCTでは神経線維層の厚みが正常かどうかを測定できます。神経線維層に沿った独特の欠損(NFBD、nerve fiber bundle defect)があれば緑内障の疑いが大です。
同時に、静的視野検査による視野欠損があれば緑内障の診断がほぼ確定されます。
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眼圧の絶対値が高いとは限りません。
眼圧の正常値とされる20mmHg以下のPOAGが全体の70%を占めます。
したがって、眼圧測定はPOAGのスクリーニングにはなりません。
スクリーニングは眼底写真の乳頭所見を参考にします。
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緑内障の治療
眼圧を下げることにより、緑内障の進行を抑えたり、遅らせたりすることができます。
緑内障は慢性的に神経の変性を来す疾患にしては珍しく、治療法が確立している病気ですのでご安心ください。
眼圧を十分に下げても、既存の視野障害を改善させることはできません。
したがって、緑内障は早期発見、早期治療介入が大切です。
眼圧を十分に下げることにより、視神経、視野変化の進行が止まります。
これを確認しつつ治療を継続することが大切です。
視野の進行は自覚できないことが多いので、自己判断で治療を中止することは避けてください。
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眼圧を下げる手段として、薬物(点眼薬)、レーザー(SLT、selective laser trabeculoplasty)および観血手術があります。
緑内障の点眼薬は多数開発されています。
第一選択として用いられるのは、プロスタグランジン関連薬です。
それ以外に、β-ブロッカーや炭酸脱水酵素阻害剤など、作用機序の異なる多種類の点眼薬があります。
重複して用いることにより、より強い眼圧降下作用が期待できます。
しかし、点眼薬は副作用が問題となることがあり、しばしば継続が困難となります。
副作用として、結膜充血、ドライアイ、表層角膜炎、眼瞼結膜炎、色素沈着、睫毛増大、眼瞼下垂、眼球陥凹などがあります。
緑内障レーザー治療
SLT-first療法
SLTは隅角の房水流出路(トラベクルム)に直接照射するYAGレーザーです。
流出路抵抗を下げることにより眼圧が下がります。
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SLTは点眼薬に比べ副作用が少なく効果が長い利点があります。
一度の施術で1年以上の期間効果が持続します。
眼圧降下作用は15%程度です(自院のデータ)。
高眼圧症~初期POAGを対象にして、点眼薬とSLTを比較したところ、視野の進行を抑制する効果について、SLTのほうが点眼薬よりも有意に優れているとの報告があります。
Laser in Glaucoma and Ocular Hypertension(LIGHT)Trial Six-Year Results of Primary Selective Laser Trabeculoplasty versus Eye Drops for Treatment of Glaucoma and Ocular Hypertension. Gazzardら (Ophthalmology 2022, open access)
点眼薬の代わりにSLTで治療を開始するSLT-first療法を当院では積極的に行っています。
緑内障手術
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緑内障の手術は昔から多くの種類が試されてきました。
大きく分けて
1)流出路改善術(トラベクロトミー)と
2)濾過手術(トラベクレクトミー)に分類できます。
1)は初期~中期、2)は中期~末期のPOAGに行われてきました。
1)は流出抵抗を手術的に改善させることにより眼圧を下げます。
アイステント iStent
アイステントはごく小さい流量改善デバイスで、中央に水を通す穴がついています。
隅角のトラベクルムに差し込みます。
低侵襲緑内障手術(MIGS、minimally invasive glaucoma surgery)の1種で、手術内容としては1)に属しており、顕著な眼圧降下作用と低侵襲により最近特に注目されています。
大多数の症例で25%もの眼圧下降が1年以上持続します(自院のデータ)。
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アイステントは白内障手術の終了間際に、新しい創を作ることなく、隅角鏡を用いて短時間で挿入できます。
患者さんの肉体的負担はごくわずかです。
ただし、白内障との同時施行でないと保険適応にはなりません。
また、多焦点眼内レンズとの同時施行はできません。
すでに白内障手術を受けられた方は、アイステントの単独手術も可能ですが、自費診療になります。
手術代金は20万円(+消費税)です。
初期~中期POAGの診断が確定し点眼治療を受けておられる患者さんが白内障手術を予定される際には、アイステントの同時施行を強くお勧めしています。
濾過手術 LEC(trabeculectomy)
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眼圧の絶対値を10mmHg前後にまでさげるには、LECが必要になってきます。
中~末期のPOAGで点眼薬などでも進行が止まらない症例が対象です。
後房から強膜フラップを通じて結膜下に房水を漏出させ、適度な眼圧を保つ、非常にデリケートな手術です。
手術自体はそれほどむつかしいものではありませんが、術後の管理が大切です。
眼圧をコントロールするため、結膜下の縫合糸をレーザーで切断したり、針により再切開したり(ニードリング)、患者さん自身に眼球圧迫をしていただくといったことが必要になってきます。
最高齢、認知症、通院困難は対象外になります。
したがって、LECも比較的早期から考慮して行かなければなりません。
プリザーフロ マイクロシャント Preserflo Microshunt
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前房から結膜下に通じる水路となるデバイスです。
チューブの内径、長さが計算されており、眼圧が15mmHgくらいに調節されるようになっています。
LECのような濾過手術の1種ですが、虹彩切除、フラップ作成が必要ありません。
しかし、閉塞隅角緑内障、ブドウ膜炎による続発緑内障、血管新生緑内障など、チューブが詰まる可能性がある症例には使用できません。
また、目標眼圧もLECよりは高めです。
アイステントとLECの間に位置する手術です。
閉塞隅角緑内障 PACG(primary angle closure glaucoma)
閉塞隅角(PAC)による眼圧上昇を放置することにより、視神経が損傷される病気です。
閉塞隅角を来す人は、眼圧が上昇する前から隅角が狭い特徴があります。
狭隅角でありながら隅角閉塞には至っておらず、したがって眼圧も正常の状態をPACS(primary angle closure suspect)と呼びます。
PACS→PAC→PACGと進行します。
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PACG、PAC、PACSとも治療法は白内障手術です。
白内障手術により前房が深くなり、隅角が開放されます。
隅角の癒着がある場合は、隅角癒着乖離術(GSL、gonio-synechia-lysis)を併用します。
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PACGやPACの予防のため、PACSの患者さんは早期の白内障手術をお勧めしています。
なお、内科などの先生が検査や治療の際「緑内障はありませんか」と尋ねてこられることがあります。
この場合の「緑内障」とはPACG、PACSのことです。POAGのことではありません。
緑内障との診断を受けておられなくても、PACSは高頻度に存在します。
不安があればお近くの眼科を受診してください。
白内障手術を受けられた方はPACSに該当いたしません。