水晶体の屈折力と調節力
白内障は眼の中の水晶体という部分が濁って、視力が低下する病気です。
眼をカメラに例えると、水晶体と角膜がレンズの役割をしています。
光を屈折する力(屈折力)は角膜:水晶体=2:1と角膜のほうが大きいのですが、水晶体はその厚みを変化させることにより、全体の屈折力を変化させる大切な働きがあります。
これを調節といいます。調節作用により、若い世代では遠くから近くまで連続的にピント合わせができます。
遠くから近くの20cmまでピント合わせをするには5D(ディオプター)の調節力が必要で、20代の水晶体は10D以上の調節力があります。
調節力は年齢とともに低下し、50才を過ぎると2D以下になります。これが老眼です。
白内障手術により下記のような心身の改善が報告されており、
視機能改善と光需要改善が寄与していると考えられています。
- 歩行速度の増加
- 転倒の減少
- 交通事故の減少
- 着色IOLでは血圧が低下
- 幸福度の増加
- うつ傾向の軽減
- 認知機能への効果
- 自覚的睡眠の質の改善
- メラトニン分泌の増加
- ADLの向上
単焦点眼内レンズ
白内障手術では水晶体の中身だけを超音波で砕いて吸いだし、のこった袋(水晶体嚢)の中に眼内レンズを挿入します。おおまかな流れは図の通りです。
単焦点IOLは一か所にピントを集めたレンズで、カメラやメガネのレンズと似ています。
調節力を失った、中高年以降の水晶体も単焦点レンズです。
後に述べる多焦点IOLにくらべて解像度はすぐれていますが、ピントの合う範囲が狭いので術後は老眼になります。
遠くがよく見えるようにピントを合わせると、近くはぼけるので老眼鏡が必要です。
近視を残して読書距離にピントを合わせると、運転や外出時に遠用メガネが必要です。
度数選択と乱視矯正
単焦点IOLで特に重要なのが術後の屈折値です。
つまり、裸眼でどの距離にピントが合っているかということです。
適切な度数のIOLを選ぶことにより、軽度近視(裸眼で近くが見える)から正視(裸眼で遠くが見える)の範囲で、術後の屈折値を自由に選ぶことができます。
炊事、洗濯、掃除、入浴など家庭での日常生活を重視するなら近方4~50cm、PCは5~60cm、歩行には1~2m、TV、運転には2m~にピントの位置を合わせます。
患者さんの年齢、術前の屈折値、生活習慣、仕事、運転の有無などを参考に、その人に合った屈折の狙いをご提案いたします。
また、角膜乱視を矯正するトーリックIOLを必要に応じて使うことにより、ピントの合う位置での裸眼視力を向上させることができます。
単焦点IOLでも術後の眼鏡依存度を減らす方針は多焦点IOLと同様ですが、狙いの位置により、遠用、近用、または両用の眼鏡が必要になることが多いです。
白内障手術の広い適応
白内障による矯正視力の低下が手術適応になるのは当然ですが、視力低下がそれほどではなくても白内障手術をお勧めする場合があります。
①隅角が狭く、急性隅角閉塞(PAC)による眼圧上昇の危険がある場合
②慢性閉塞隅角緑内障(PACG)
①が進行して、慢性的に眼圧上昇が生じ、視神経の障害を来している場合のことです。
③開放隅角緑内障(POAG)
いわゆる緑内障といえばこれを指します。
緑内障と白内障の同時手術(アイステント)により良好な眼圧コントロールが期待できますので、白内障があれば早期の手術をお勧めしています。
《アイステントについて詳しくはコチラ》
④黄斑前膜、網膜剥離など、硝子体手術の際、必要に応じて白内障手術を同時施行します。
多焦点眼内レンズ
ピントの合う範囲を拡大させたIOLです。
それにより裸眼で見える範囲が広くなり、眼前30cmから遠方まで連続的に見えるレンズもあります(3焦点や連続焦点)。
ただし、ピントの位置を広げるほどピントが甘くなる(コントラスト感度が落ちる)傾向があり、暗所での光が滲む現象(ハロ、グレア)も大きくなります。
ハロ・グレア
単焦点眼内レンズ 多焦点眼内レンズそこでピントの合う範囲を少し広げただけの焦点深度拡張型EDOF(extended depth of focus)IOLも提供されています。
EDOFIOLはコントラスト感度やハロ、グレアで有利ですが、屈折を遠方にきっちりと合わせた場合、近用メガネが必要になることがあります。
各メーカーが開発競争を繰り広げる多焦点IOLの種類は多く、そのすべてが輸入されているわけではありません。
そのうち、日本に代理店があり、厚生労働省で認可されている多焦点IOLは健康保険の選定療養に指定されています。
選定療養は通常の白内障手術と同じ保険診療の自己負担分とIOL代金の合計をお支払いいただく制度です。
混合診療の一種であり、完全自費診療に比べ費用がお安くなっています。
《費用について詳しくはコチラ》
多焦点眼内レンズ比較
レンズ写真 | 焦点の位置 | 乱視 矯正 |
コントラスト 感度 |
ハロ・ グレア |
保険 | レンズ代 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
単焦点 | 1か所(遠方から2m) | △ | 落ちない | 出にくい | 健康 保険 |
なし | |
シンフォニー | 1か所(遠方~60cm) | × | 落ちない | やや 出やすい |
選定 療養 |
18万+税 | |
シンフォニー トーリック |
1か所(遠方~60cm) | 〇4種類 | 落ちない | やや 出やすい |
選定 療養 |
22万+税 | |
ビビティ | 1か所(遠方~60cm) | × | 落ちない | 出にくい | 選定 療養 |
30万+税 | |
テクニス シナジー |
2か所(遠方~40cm) | × | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
32万+税 | |
テクニス シナジー トーリック |
2か所(遠方~40cm) | 〇4種類 | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
36万+税 | |
ファインビジョン | 3か所(遠方と65cmと35cm) | × | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
30万+税 | |
パンオプティクス | 3か所(遠方と60cmと40cm) | × | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
30万+税 | |
パンオプティクス トーリック |
3か所(遠方と60cmと40cm) | 〇5種類 | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
35万+税 | |
ジェメトリック | 3か所(遠方と60cmと35cm) | × | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
30万+税 | |
ジェメトリック トーリック |
3か所(遠方と60cmと35cm) | 〇5種類 | 落ちる | 出やすい | 選定 療養 |
35万+税 | |
ミニウェルレディ /プロクサ |
2か所(遠方と50cm) | × | やや 落ちる |
出にくい | 自費 | 57万+税 | |
ミニウェルレディ トーリック |
2か所(遠方と50cm) | 〇8種類 | やや 落ちる |
出にくい | 自費 | 62万+税 | |
レンティス トーリック |
2か所(遠方と40cm) | 〇オーダー | 落ちる | 出やすい | 自費 | 62万+税 |
- コントラスト:明るさ、色彩、質感。
- ハロ・グレア:光がぼやける、まぶしく感じる。夜間の照明や車のライトで感じる。
- 健康保険、選定療養のレンズ:レンズ代に健康保険一部自己負担金、1・2割負担で+1万8千円、3割負担で+5~6万円がかかります。
- 自費レンズ:レンズ代には手術代、術後一定期間の検査、診察、投薬費用を含みます。
多焦点IOLの適応
眼鏡をはずして生活したい方が多焦点IOLの適応になります。
特に高度近視のコンタクトユーザー、スポーツ重視の生活スタイル、眼鏡やコンタクトが不適な環境で仕事をされている方など、よい適応です。
屈折異常が軽度、夜間の運転が多い、暗い場所での仕事、細かい手作業などでは、多焦点IOLの見え方をよく考えたうえで慎重に決断します。
白内障がほとんどなく矯正視力が良好で老眼治療のために多焦点IOLを希望する場合、多焦点有水晶体眼内レンズ(IPCL progressive)の方が有利です。
見え方に問題を感じた場合でも、摘出により元に戻せるからです。
《IPCLについて詳しくはコチラ》
黄斑変性、進行した緑内障(視神経障害)、角膜混濁、角膜不正乱視などは、多焦点IOLが非適応です。
タッチアップレーシック
多焦点眼内レンズは、一般の単焦点眼内レンズと異なり、術後の裸眼視力が大切ですが、乱視や近視、遠視などの屈折異常が残れば満足な裸眼視力を得ることができません。
最新の検査機器や計算式を用いて眼内レンズの度数を決めても、過去に屈折矯正手術を受けられた方などでは、手術後思い通りの度数にならないことが多々あります。
また、乱視矯正についても同様です。既製品のため度数は0.5D刻みで、乱視の加入度数も限られていることを念頭に置いておく必要があります。
多焦点眼内レンズ挿入後、その人にとって「ベスト」な裸眼視力を得ようとすれば、屈折誤差を可能な限り取り除く必要があります。
微小な屈折誤差を手術的に治す方法としては「タッチアップレーシック」が最も安全で優れています。
タッチアップレーシックにより角膜の形を変え、遠視、近視、乱視を矯正することで良質な裸眼視力を得ることができます。
当院はフェムトセカンドレーザー、エキシマレーザーを所有し、レーシックに関して豊富な経験を積んでおります。
当院で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けられた方はもちろん、他院で受けられた方もぜひご相談ください。
手術費用 | 当院で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けられた方 片眼:110,000円(税込)/ 両眼:220,000円(税込) |
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他院で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けられた方※要紹介状 片眼:170,000円(税込)/ 両眼:340,000円(税込) |
眼内レンズ入れ換え手術
白内障手術で眼内レンズを挿入したあと、度数や乱視の微調整を希望される場合、タッチアップレーシックが第一選択ですが、RKやレーシック後、円錐角膜などがありレーシックができない場合、眼内レンズを入れ替える手術となります。
また、多焦点眼内レンズから単焦点眼内レンズへ変更したい場合、多焦点レンズの種類を変更したい場合も、眼内レンズ入れ換え手術となります。
単焦点眼内レンズから多焦点眼内レンズに変更したい場合は、多焦点のAddOn眼内レンズを追加挿入するか、多焦点の眼内レンズに入れ替えるかの2択となります。
上記の場合の眼内レンズ入れ換え手術は、完全自費診療となります。
単焦点眼内レンズ へ入れ換える場合 |
220,000円(税込) |
---|---|
多焦点眼内レンズ へ入れ換える場合 |
220,000円(税込)+レンズ代 |
眼内レンズの脱臼や、混濁などによる眼内レンズ入れ換え手術は健康保険の適応となります。
手術スケジュール(初診~手術~術後診察)
- 初診
初診受付は月曜~金曜日9時~11時30分、13時30分~16時となっております。
《詳しくは診療案内を御覧ください》手術前に執刀医の診察をお受けいただきますので、
できるだけ午前中にお越し下さい。
瞳を開いて(散瞳)診察を行いますので、
お車・バイク・自転車を運転されての来院はお控え下さい。診察にて白内障手術適応と診断された方は、手術日を決定していただき、
手術前検査日・手術前診察日等のご予約をお取りします。
他の病院で内服薬を処方されている方は、薬剤名をお知らせ下さい。手術までの待機期間は約1~2ヶ月となっておりますが、
症状によっては前倒しを検討いたします。
当院では、手術患者様に関する診察は主治医制を採っております。
術前・術後の診察は同じ医師が行い、
一人の患者様を責任を持って診察致しております。 - 手術前検査
通常の検査に加え、角膜内皮細胞・前房フレアー値・角膜形状解析・眼軸長など。
お昼からの予約の検査となります。
予約は手術申し込み時にお取り致します。 - 手術前診察
手術の1~2週間前に手術前診察にお越しいただきます。
最終的な診察や、手術前点眼薬の説明、手術日のスケジュールや
来院時間などもお伝え致します。 - 手術当日
来院予定時間までにお越し下さい。
来院からご帰宅までは約2時間程度を予定しております。
ご家族の方でご希望の場合は手術見学できるお部屋にご案内いたします。
お渡しするパンフレットをよくお読みになり、
手術後の日常生活は十分にご注意下さい。 - 手術翌日
翌日は必ず診察へお越し下さい。
眼科様よりご紹介いただいた患者様は、原則として術翌日の診察の後、
ご紹介いただいた眼科様で経過観察を続行していただきます。
眼科様宛の紹介状をお渡ししますので、一両日中に診察をお受け下さい。 - 術後検診
白内障手術後の診察のスケジュールは、
術翌日、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、一年後となっております。それ以降につきましては患者様の状態により異なり、
もともと緑内障や糖尿病網膜症など他に疾患のある患者様は
定期的な受診が必要となります。
なお、手術後はおよそ1ヶ月間点眼していただきますので、
点眼がなくなる前に診察をお受け下さい。